刺客荊軻


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     [ 現代語訳・書き下し文・読み ]


     [ 現代語訳・書き下し文 ]

喜の太子丹、秦に質たり。
喜の太子の丹が、秦の人質になっていた。

秦王政礼せず。
秦王政は礼遇しなかった。

怒りて亡げ帰る。
怒って逃げ帰った。

秦を怨みて之に報いんと欲す。
秦を恨んでこれに報復しようと思った。

秦の将軍樊於期、罪を得て亡げて燕に之く。
秦の将軍樊於期が、とがめを受け逃げて燕に至った。

丹受けて之を舎す。
丹は受け入れてこれを屋敷に住まわせた。

丹衛人荊軻の賢なるを聞き、
丹は、衛の国の人荊軻が知能や人徳に優れていると聞き、

辞を卑くし礼を厚くして之を請ふ。
丁寧な言葉を使い礼物を十分にしてこれを招いた。

奉養至らざる無し。
衣食の世話もすべて行き届いていた。

軻を遣はさんと欲す。
荊軻を派遣しようと思った。

軻樊将軍の首及び燕の督亢の地図を得て、
荊軻は、樊将軍の首と燕の督亢の地図をいただいて、

以つて秦に献ぜんことを請ふ。
それを秦に献上したいと願い出た。

丹於期を殺すに忍びず。
丹は、樊於期を殺すことに気の毒で耐えられなかった。

軻自ら意を以つて之を諷して曰はく、
荊軻が自分の考えで樊於期に告げて言うには、

「願はくは将軍の首を得て、以つて秦王に献ぜん。
「なにとぞ将軍の御首をいただいて、それを秦王に献上したい。

必ず喜びで臣を見ん。
必ず喜んで私に会うでしょう。

臣左手に其の袖を把り、右手に其の胸を揕さば、
私が左手で秦王の袖をにぎり、右手でその胸を刃物で突き刺せば、

則ち将軍の仇報いられて燕の恥雪がれん。」と。
それで将軍の仇も報いられて燕の恥もすすがれるでしょう。」と。

於期遂に慨然として自ら刎す。
樊於期はそこで気力を奮い起こして自分で自分の首を切って死んだ。

丹奔り往き、伏して哭す。
丹は走って行き、とりすがって大声をあげて泣いた。

乃ち函を以つて其の首を盛る。
それから函にその首を入れた。

又嘗て天下の利匕首を求め、
また、かって求めておいた天下無双の鋭利な小刀を、

薬を以つて之を焠し、以つて人に試みるに、
毒薬を小刀に塗って焼きを入れ、人に試してみると、

血縷のごとくにして立ちどころに死す。
出血はごく少なくて、たちまち死んでしまった。

乃ち軻を装遣す。
そこで、荊軻に身じたくを整えさせ、送り出した。

行きて易水に至り、歌ひて曰はく、
行って易水に到って、歌うことには、

 「風蕭蕭として易水寒し
 「風は蕭蕭ともの寂しく吹き、易水は寒々と流れる

  壮士一たび去りて復た還らず。」と。
  意気さかんな男はひとたび去っていけば、二度とは帰ってこない。」と。

時に白虹日を貫く。
ちょうど白い虹が太陽を横切るように空に見えた。

燕人之を畏る。
燕の国の人はこれを恐れた。

軻咸陽に至る。
軻が咸陽に到着した。

秦王政大いに喜び之を見る。
秦王政は大いに喜んで彼に会った。

軻図を奉じて進む。
軻は地図をささげて進んだ。

図窮まりて匕首見はる。
巻物の地図が最後のところまで開かれると小刀が現れた。

王の袖を把りて之を揕す。
王の袖をつかんで刺そうとした。

未だ身に及ばず。
まだ王の身体に届かなかった。

王驚きて起ち、袖を絶つ。
王は驚いて立ち上がり、袖を引きちぎった。

軻之を逐ふ。
軻はこれを追った。

柱を環りて走る。
二人は柱の周りを走り回った。

秦の法に群臣の殿上に侍する者は、尺寸の兵を操るを得ず。
秦の法律では群臣で殿上にかしづく者は、小さな武器も持てなかった。

左右手を以つて之を搏つ。
側近の者たちが素手で軻をたたいた。

且つ曰はく、「王剣を負へ。」と。
また、「王さま、剣を背負いなさい。」と注意した。

遂に剣を抜きて其の左股を断つ。
そこで剣を抜いて軻の左の股を切断した。

軻匕首を引きて王に擿つ。
軻は匕首を引き寄せて王に投げつけた。

中たらず。
命中しなかった。

遂に体解して以つて徇ふ。
こうして、体をバラバラにしたうえ、さらしものにした。

秦王大いに怒りて益兵を発して燕を伐つ。
秦王は大いに怒って、ますます兵を送って燕を攻撃した。

喜丹を斬りて以つて献ず。
喜は丹を斬ってその首を献上した。

後三年、秦兵喜を虜にし、遂に燕を滅ぼして郡と為す。
三年後、秦の兵は喜を捕らえ、遂に燕を滅ぼして領土の一部にした。






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