雑説


・ 韓愈「雑説」は龍の説・医の説・鶴の説・馬の説の四つで構成されています。その中の雑説四「馬の説」があまりにも有名なので「雑説=馬の説」と思い込んでいる人も少なくないようです。 また、「雑説」とは、一般的には「特に題を設けない論説文」という意味ですが、龍・医・鶴・馬の四つの説を通して読むと、君主と家臣について書かれているのではないかと思われます。

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 [ 現代語訳・書き下し文1 ]

雑説 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 伯楽 … 馬の鑑定の名人

・ 然る後に … それではじめて

・ 千里の馬 … 一日に千里を走る名馬

・ 不常〜 … いつも〜とは限らない

  読み「つねニハ〜ず」(部分否定)

・ 雖も … 〜であっても(逆説)

・ 祇だ … ただ(限定)

・ 奴隷人 … 使用人

・ 〜於A … Aに〜される

  読み「Aニ〜ラル」(受身)

・ 槽櫪 … かいばおけ、馬小屋

・ 槽櫪之間 … 馬小屋の中

・ 駢 … ならぶ、ならべる

・ 駢死す … 首を並べて死ぬ

・ 称す … ほめたたえる


 [ 現代語訳・書き下し文2 ]

雑説 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 粟 … 穀物

・ 一石 … 約六十リットル

・ 食ふ … 養う

・ 才の美 … 才能の優秀さ

・ 見れる … 現れる


 [ 現代語訳・書き下し文3 ]

雑説 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 且つ … そのうえ

・ 常馬 … 並の能力の馬

・ 不可〜 … 〜できない

・ 安〜也 … どうして〜か、〜でない

  読み「いずクンゾ〜や」(反語)

・ 道 … 手段、方法

・ 其の道 … 名馬にふさわしい方法

・ 材 … 才能


 [ 現代語訳・書き下し文4 ]

雑説 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 意 … 気持ち

・ 其の意 … 馬の気持ち

・ 嗚呼 … ああ(感嘆)

・ 〜耶 … 〜か(疑問)

・ 〜也 … 〜か(疑問)




    [ 原文 ]

世有伯楽、然後有千里馬。

千里馬常有、而伯楽不常有。

故雖有名馬、祇辱於奴隷人之手、

駢死於槽櫪之間、不以千里称也。

馬之千里者、一食或尽粟一石。

食馬者、不知其能千里而食也。

是馬也、雖有千里之能、食不飽、

力不足、才美不外見。

且欲与常馬等、不可得。

安求其能千里也。

策之、不以其道。

食之、不能尽其材。

鳴之、而不能通其意。

執策而臨之曰、「天下無馬。」

嗚呼、其真無馬邪、其真不知馬也。


    [ 現代語訳 ]

世の中に伯楽がいて、はじめて千里の馬は存在する。

千里の馬はいつもいるが、伯楽はいつもいるとは限らない。

それで名馬がいても、ただ使用人の手で粗末に扱われ、馬小屋の中で首を並べて死んで、千里を走る能力をほめたたえられない。

馬で千里を走れるものは、一回の食事でときには穀物一石を食べつくす。

馬の飼い主は、その馬に千里を走る能力があると知って飼っていないのである。

その馬が、千里を走る能力があっても、食料が十分でなければ、力が足りなくて、才能のすばらしさが外に現れない。

そのうえ普通の馬と同じような働きをしたいと思ってもできない。

どうしてその千里を走る能力を求めることができようか。

これをむちで打つのに、それにふさわしい扱い方をしない。

これを飼育するのに、その素質を十分に発揮させることができない。

これに鳴いて訴えても、その気持ちを理解することができない。

むちを手に取ってこれを前にして言うには、「世の中に名馬はいない。」と。

ああ、ほんとうに名馬はいないのか、ほんとうに名馬を見抜けないのか。




    [ 書き下し文 ]

世に伯楽有りて、然る後に千里の馬有り。

千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。

故に名馬有りと雖も、祇だ奴隷人の手に辱められ、槽櫪の間に駢死して、千里を以て称せられざるなり。

馬の千里なる者は、一食に或いは粟一石を尽くす。

馬を食ふ者は、其の能の千里なるを知りて食はざるなり。

是の馬や、千里の能有りと雖も、食飽かざれば、力足らず、才の美外に見はれず。

且つ常馬と等しからんと欲するも、得べからず。

安くんぞ其の能の千里なるを求めんや。

之を策うつに、其の道を以てせず。

之を食ふに、其の材を尽くさしむる能はず。

之に鳴けども、其の意に通ずる能はず。

策を執りて之に臨みて曰はく、「天下に馬無し。」と。

鳴呼、其れ真に馬無きか、其れ真に馬を知らざるか。






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