刑部卿敦兼の北の方


・ 古今著聞集「刑部卿敦兼の北の方」の現代語訳と品詞分解です。現代語訳と品詞分解を並べて記載しています。

・ 500個ほど有るといわれている重要語句はカラーで表示しています。150個ほど有るといわれている最重要語句には印を付けています。

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       [ 現代語訳・品詞分解・原文 ]

刑部卿敦兼の北の方・古今著聞集 現代語訳・品詞分解・原文


       [ 詳しい解説 ]

刑部卿敦兼は、みめのよに憎さげなる人なりけり。
刑部省長官敦兼は、容貌がとても醜い感じの人だった。
○ よに … 非常に
・ 憎さげなる … ナリ活用の形容動詞「憎さげなり」の連体形
・ なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

その北の方は、はなやかなる人なりけるが、五節を見はべりけるに、
その夫人は、明るい感じで美しい人だったが、宮中の五節を見ました時に、
・ はなやかなる … ナリ活用の形容動詞「はなやかなり」の連体形
○ はなやかなり … 明るい感じで美しい
・ なり … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ 見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・ はべり … ラ行変格活用の丁寧の補助動詞「はべり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

とりどりにはなやかなる人々のあるを見るにつけても、
さまざまに明るい感じで美しい人々がいるのを見るにつけても、
・ とりどりに … ナリ活用の形容動詞「とりどりなり」の連用形
・ はなやかなる … ナリ活用の形容動詞「はなやかなり」の連体形
・ ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・ 見る … マ行上一段活用の動詞「見る」の連体形
・ つけ … カ行下二段活用の動詞「つく」の連用形


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まづわが男のわろさ心憂くおぼえけり。
まっ先に自分の夫のよくなさが情けなく思われた。

家に帰りて、すべてものをだにも言はず、目をも見合はせず、
家に帰って、まったく言葉さえも交わさず、目も見合わせず、

うち側向きてあれば、しばしは、
そっぽを向いているので、しばらくは、

何事の出で来たるぞやと、心も得ず思ひゐたるに、
何事が生じたのかと、わけもわからないで、思っていたが、

しだいに厭ひまさりて、かたわはらいたきほどなり。
しだいに嫌がる気持ちが強くなって、気の毒なほどである。

先々のやうに一所にもゐず、方を変へて住みはべりけり。
以前のように同じ所にもいないで、居室を変えて住んでいました。

ある日、刑部卿出仕して、夜に入りて帰りたりけるに、
ある日、刑部卿が勤めに出て、夜になって帰ってきたところ、

出居に火をだにも灯さず、装束は脱ぎたれども、畳む人もなかりけり。
出居に明かりさえも灯さず、装束は脱いだけれども、たたむ人もいなかった。

女房どもも、みな御前の目引きに従ひて、さし出づる人もなかりければ、
女房たちも、みな夫人の目くばせに従って、出てくる人もいなかったので、

せん方なくて、車寄せの妻戸を押し開けて、ひとりながめゐたるに、
しかたなくて、車寄せの妻戸を押し開けて、ひとり物思いにふけっていたが、

更闌け、夜静かにて、月の光、風の音、ものごとに身にしみわたりて、
夜も更け、夜は静まって、月の光、風の音、全てのものが身にしみ通って、

人の恨めしさも取り添へておぼえけるままに、
夫人への恨めしさも思い合わされるままに、

心を澄まして、篳篥を取り出でて、時の音に取り澄まして、
心を澄ませて、篳篥を取り出して、時季に合った調子に澄んだ音色で吹いて、

  籬の内なるしら菊も
  垣根の中にある白菊も、

  うつろふ見るこそあはれなれ
  色あせるのを見るのは悲しいものだ。

  我らが通ひて見し人も
  私が通って連れ添った人も、

  かくしつつこそかれにしか
  花が枯れるように離れて行ってしまったよ。

と、繰り返しうたひけるを、
と、繰り返し歌ったのを、

北の方き聞きて、心はや直りにけり。
夫人が聞いて、夫を嫌う気持ちがすぐにおさまった。

それよりことに仲らひめでたくなりにけるとかや。
それからは格別に夫婦仲が円満になったとかいうことだ。

優なる北の方の心なるべし。
優しい夫人の心なのだろう。






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