帰京


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      [ 現代語訳・品詞分解・読み ]


       [ 現代語訳・原文・語句 ]

夜ふけて来れば、所々も見えず。
夜がふけてから来たので、あちらもこちらも見えない。

京に入り立ちてうれし。
京に入ってうれしい。
・ 入り立つ … はいり込む

家に至りて、門に入るに、月明かければ、いとよくありさま見ゆ。
家に着いて、門を入ると、月が明るいので、たいそうよく様子が見える。

聞きしよりもまして、言ふかひなくぞこぼれ破れたる。
聞いていた以上になんとも言いようがないほど壊れて破損している。
・ 言ふかひなし … どう言いようもない
・ ぞ(係助詞・強調) ⇒ 結び:たる(連体形)
・ こぼる … 壊れる
・ 破る … 破損する

家に預けたりつる人の心も、荒れたるなりけり。
家の管理を任せておいた人の心も、荒れているのだった。

中垣こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預れるなり。
中垣はあるが、一軒の家のようなものなので、望んで預かっていたのだ。
・ 中垣 … 隣家との間を隔てる垣根
・ こそ(係助詞・強調) ⇒ 結び:あれ(已然形)
・ こそあれ ⇒ 係助詞「こそ」の結びにあたる語句で文が終わらずに下に続く場合は逆接に解釈する

さるは、たよりごとに物も絶えず得させたり。
そうはいっても、機会があるたびに物品を欠かさず与えていたのだ。
・ さるは … そうではあるが
・ たより … ついで、機会

今宵、「かかること。」と、声高にものも言はせず。
今夜は、「このようなこと。」と、大声で言わせたりしない。
・ かかり … このようである

いとはつらく見ゆれど、志はせむとす。
ひどく薄情に思われるが、お礼はしようと思う。
・ つらし … 薄情である
・ 見ゆ … 思われる

さて、池めいてくぼまり、水つける所あり。
さて、池のようにくぼんで、水のたまっている所がある。
・ 〜めく … 〜のような状態になる
・ 水つく … 水に浸る

ほとりに松もありき。五年六年のうちに、
そばに松もあった。五年、六年の間に、
・ ほとり … その附近、そば

千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。
千年も過ぎてしまったのだろうか、半分はなくなってしまった。
・ や(係助詞・疑問) ⇒ 結び:けむ(連体形)
・ かたへ … 半分、一部分

今生ひたるぞ交じれる。
新しく生えたのが交じっている。
・ ぞ(係助詞・強調) ⇒ 結び:る(連体形)

おほかたの、みな荒れにたれば、「あはれ。」とぞ人人言ふ。
ほとんどが、みな荒れてしまっているので、「ああ。」と人々が言う。
・ おほかた … 大部分
・ あはれ … ああ

思ひ出でぬことなく、思ひ恋しきがうちに、
思い出さないことはなく、思って恋しいことの中で、

この家にて生れし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。
この家で生まれた女の子が、一緒に帰らないので、どんなに悲しいことか。
・ もろともに … いっしょに
・ いかがは ⇒ どんなに〜か(「疑問」の形式で「程度のはなはだしさ」を表現)

船人もみな、子たかりてののしる。
同船して帰った人々も皆、子どもが集まって騒いでいる。
・ 船人 … 船に乗っている人
・ たかる … 一か所に集まる
・ ののしる … 大声をあげて騒ぐ

かかるうちに、なほ悲しきに堪へずして、
こうしているうちに、やはり悲しいのに堪えられないで、
・ かかり … このようである
・ なほ … やはり

ひそかに心知れる人と言へりける歌、
そっと心の通じ合っている人と詠んだ歌、

  生まれしも帰らぬものをわが宿に
  この家で生まれた子も帰って来ないのに、わが家に
  ・ 〜ものを … 〜のに(逆説)

  小松のあるを見るが悲しさ
  小松が生えているのを見るのは悲しいことだ。

とぞ言へる。なほ飽かずやあらむ、またかくなむ。
と詠んだ。それでも言い足りないのだろうか、また、このように詠んだ。
・ 飽く … 満足する
・ や(係助詞・疑問) ⇒ 結び:む(連体形)

  見し人の松の千年に見ましかば
  亡くなった子を千年の寿命を持つ松のように見られるならば、
  ・  A ましかば〜 B まし …  A であるならば 〜 B であるだろう
  ・ まし ⇒ 「まし」は反実仮想の助動詞です。
    「反実仮想」とは、事実に反することを仮りに想像することです。

  遠く悲しき別れせましや
  遠い国での悲しい別れをしただろうか。
  ・ 遠し ⇒ 「遠い土佐の国で」と「永遠の」の両方の意味を持つ

忘れがたく、口惜しきこと多かれど、え尽くさず。
忘れがたく、残念なことが多いのだが、書き尽くすことはできない。
・ 口惜し … 残念である
・ え〜(打消) … 〜できない

とまれかうまれ、疾く破りてむ。
何はともあれ、早く破ってしまおう。
・ とまれかうまれ … どうであっても
・ 疾し … 早い






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