・ 敬語法について
・ 敬語は、一般的に、作者の敬意を表します。
・ 尊敬語は、動作の主体に対する、謙譲語は、動作の相手に対する、
丁寧語は、読者に対する、作者の敬意を表します。
・ 会話においては、話者の敬意を表します。
会話において、丁寧語は、話し相手に対する話者の敬意を表します。
・ 解説では、たとえば、作者のかぐや姫に対する敬意を次のように記載します。
敬意:作者 ⇒ かぐや姫
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[ 現代語訳・品詞分解・原文 ]
八月十五日ばかりの月に出でゐて、かぐや姫いといたく泣きたまふ。
八月十五日ごろの月に縁側に出て座って、かぐや姫はとてもひどくお泣きになる。
・ 出でゐ … 行上一段活用の動詞「出でゐる」の連用形
・ いたく … ク活用の形容詞「いたし」の連用形
☆ いたし … (基本)程度がはなはだしい
(文脈)激しい
・ 泣き … 行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・ たまふ … 行四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の終止形
○ たまふ(尊敬語) … 敬意:作者 ⇒ かぐや姫
人目も今はつつみたまはず泣きたまふ。
人の目からも今ではお隠しにならずお泣きになる。
・ つつみ … 行四段活用の動詞「つつむ」の連用形
・ たまは … 行四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の未然形
○ たまふ(尊敬語) … 敬意:作者 ⇒ かぐや姫
・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形
・ 泣き … 行四段活用の動詞「泣く」の連用形
・ たまふ … 行四段活用の尊敬の補助動詞「たまふ」の終止形
○ たまふ(尊敬語) … 敬意:作者 ⇒ かぐや姫
これを見て、親どもも、「何事ぞ。」と問ひさわぐ。
これを見て、親たちも、「何事ですか。」と尋ね動揺する。
・ 見 … 行上一段活用の動詞「見る」の連用形
・ 問ひ … 行四段活用の動詞「問ふ」の連用形
・ さわぐ … 行四段活用の動詞「さわぐ」の終止形
○ さわぐ … あわてる
かぐや姫泣く泣く言ふ、
かぐや姫が泣きながら言う、
・ 言ふ … 行四段活用の動詞「言ふ」の連体形
「先々も申さむと思ひしかども、
「以前も申し上げようと思ったのですが、
必ず心惑はしたまはむものぞと思ひて、今まで過ごしはべりつるなり。
きっと心を乱されるに違いないと思って、今までそのままにしていたのです。
さのみやはとて、うち出ではべりぬるぞ。
そんなに黙ってばかりいられようかと思って、うち明けるのです。
おのが身は、この国の人にもあらず。月の都の人なり。
わたしは、この国の人ではありません。月の都の人です。
それを、昔の契りありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。
それを、前世からの宿命があったことにより、この世界にはやって参りました。
今は帰るべきになりにければ、この月の十五日に、
今は帰らなければならない時になりましたので、今月の十五日に、
かのもとの国より、迎へに人々まうで来むず。
あのもともとの国から、迎えに人々がやって参るでしょう。
さらずまかりぬべければ、おぼし嘆かむが悲しきことを、
やむをえずお暇しなければなりませんので、嘆き悲しまれるだろうことが悲しくて、
この春より思ひ嘆きはべるなり。」と言ひて、いみじく泣くを、
この春から嘆いているのです。」と言って、ひどく泣くので、
翁、「こは、なでふことのたまふぞ。
翁は、「これは、何ということをおっしゃるのか。
竹の中より見つけきこえたりしかど、菜種の大きさおはせしを、
竹の中から見つけ申し上げたが、菜種の大きさでいらっしゃったのを、
わが丈立ち並ぶまで養ひたてまつりたるわが子を、何人か迎へきこえむ。
私の背丈に並ぶまで養い申し上げたわが子を、誰が迎へ申し上げようか。
まさに許さむや。」と言ひて、「我こそ死なめ。」とて、
どうして許しましょうか。」と言って、「私のほうこそ死んでしまいたい。」と、
泣きののしること、いと堪へがたげなり。
泣き騒ぐのは、とても堪えがたい様子である。
かぐや姫のいはく、「月の都の人にて、父母あり。
かぐや姫が言うには、「私は月の都の人であって、父母がいます。
片時の間とて、かの国よりまうで来しかども、
ほんの少しの間ということで、あの国からやって参りましたが、
かくこの国にはあまたの年を経ぬるになむありける。
このようにこの国で多くの年を過ごしてしまったのです。
かの国の父母のこともおぼえず、ここには、
あの国の父母のことも思い出さず、ここには、
かく久しく遊びきこえて、ならひたてまつれり。
このように長い間楽しく過ごさせていただいて、慣れ親しみ申し上げています。
いみじからむ心地もせず。悲しくのみある。
うれしい気持ちもせず、悲しいだけです。
されど、おのが心ならず、まかりなむとする。」と言ひて、
しかし、自分の意志からではなく、お暇しようとしています。」と言って、
もろともにいみじう泣く。
いっしょに激しく泣く。
使はるる人々も、年ごろならひて、立ち別れなむことを、
召し使われている人々も、長い間慣れ親しんで、きっと別れるであろうことを、
心ばへなどあてやかにうつくしかりつることを見ならひて、
気立てなど優雅で愛らしかったことを見慣れていて、
恋しからむことの堪へがたく、
恋しいだろうことが堪えがたく、
湯水飮まれず、同じ心に嘆かしがりけり。
湯水を飲むこともできず、同じ気持ちで悲しいと思った。
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