唇亡びば歯寒し


・ 縦書き、全漢字に読み、ひらがな

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 [ 現代語訳・書き下し文1 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 是に於いて … そういうわけで

・ 伐つ … 攻める

・ 将〜 … 今にも〜ようとする

  読み「まさニ〜ントす」(再読文字)


 [ 現代語訳・書き下し文2 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 然り … その通りである

・ 知る … 理解する

・ 麤中なり … 粗暴である

・ 親しみ … 親近感

・ 遂ぐ … 実現する

・ 奈何 … どのように


 [ 現代語訳・書き下し文3 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 三軍を約す … 全軍の投入を約束する

・ 期す … 決める

・ 再拜す … 丁寧にお辞儀する




 [ 現代語訳・書き下し文4 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 因りて … そこで

・ 朝す … 謁見する

・ 轅門 … 軍門


 [ 現代語訳・書き下し文5 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 志矜る … 意気揚々としている

・ 行くこと高し … 胸を張って歩む

・ 謹なり … 謹厳である

・ 寡人 … 諸侯が自分を謙遜して言う言葉

・ 親しくする … 自分で相手と約束する

・ 釈く … 捨て置く


 [ 現代語訳・書き下し文6 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 説く … 説明する

・ 色 … 顔の表情

・ 〜に如かず … 〜のほうがいい


 [ 現代語訳・書き下し文7 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 著く … つける

・ 旦暮 … わずかな時間

・ 当〜 … 当然〜するはずである

  読み「まさニ〜べシ」(再読文字)

・ 抜く … 奪い取る

・ 饗く … 受ける

・ 他心 … 裏切りの心

・ 慎む … 気をつけて〜しないようにする

・ 遂に … すぐに

・ 親しむ … 親密に接する


 [ 現代語訳・書き下し文8 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 謀臣 … 計略に巧みな家来

・ 移す … 取りかえる


 [ 現代語訳・書き下し文9 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 万家の県 … 戸数一万戸の県

・ 封ず … 領地を与えて諸侯とする


 [ 現代語訳・書き下し文10 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 言 … 意見

・ 聴く … 聞き入れる

・ 見る … 見て知る

・ 遂に … とうとう




 [ 現代語訳・書き下し文11 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 視る … 注意して見る

・ 後る … 間に合わない


 [ 現代語訳・書き下し文12 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 諾 … 了承すること

・ 期す … 決める

・ 決す … あふれ出させる

・ 灌ぐ … 流し込む

・ 吏 … 役人


 [ 現代語訳・書き下し文13 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 水を救ふ … 水から守る

・ 翼む … 間に入れる

・ 将卒 … 将校と兵卒

・ 前 … 正面

・ 犯す … 攻める

・ 禽 … 生け捕り


 [ 現代語訳・書き下し文14 ]

唇亡歯寒・戦国策 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 厭く … 満足する

・ 夫れ … そもそも

・ 存す … 生き残る




     [ 原文 ]

張孟談於是陰見韓・魏之君曰、「臣聞、唇亡則歯寒。今知伯帥二国之君伐趙、趙将亡矣。亡則二君為之次矣。」

二君曰、「我知其然。夫知伯之為人、麤中而少親。我謀未遂而知、則其禍必至。為之奈何。」

張孟談曰、「謀出二君之口、入臣之耳。人莫之知也。」

二君即与張孟談陰約三軍、与之期日、夜遣入晋陽。

張孟談以報襄子。

襄子再拜之。

張孟談因朝知伯而出、遇知過轅門之外。

知過入見知伯曰、「二主殆将有変。」

君曰、「何如。」

対曰、「臣遇張孟談於轅門之外。其志矜、其行高。」

知伯曰、「不然。吾与二主約謹矣。破趙三分其地。寡人所親之。必不欺也。子釈之。勿出於口。」

知過出見二主。

入説知伯曰、「二主色動而意変。必背君。不如令殺之。」

知伯曰、「兵著晋陽三年矣。旦暮当抜而饗其利。乃有他心不可。子慎勿復言。」

知過曰、「不殺、則遂親之。」

知伯曰、「親之奈何。」

知過曰、「魏宣子之謀臣曰趙葭、韓康子之謀臣曰段規。是皆能移其君之計。君其与二君約。破趙、則封二子者各万家之県一。如是、則二主之心可不変、而君得其所欲矣。」

知伯曰、「破趙而三分其地、又封二子者各万家之県一、則吾所得者少。不可。」

知過見君之不明、言之不聴也、出更其姓為輔氏、遂去不見。

張孟談聞之、入見襄子曰、「臣遇知過於轅門之外。其視有疑臣之心。入見知伯、出更其姓。今暮不撃、必後之矣。」

襄子曰、「諾。」

使張孟談見韓・魏之君曰、「夜期。」

殺守堤之吏、而決水灌知伯軍。

知伯軍救水而乱。

韓・魏翼而撃之、襄子将卒犯其前、大敗知伯軍、而禽知伯。

知伯身死、国亡地分、為天下笑。

此貪欲無厭也。

夫不聴知過、亦所以亡也。

知氏尽滅、唯輔氏存焉。




     [ 現代語訳 ]

そこで、張孟談がひそかに韓と魏の君主にお目にかかって言うには、「私は、唇がなくなると歯が寒い、と聞いています。今、知伯は二国の君主を率いて趙を攻撃し、趙は今にも滅びようとしています。滅びれば、お二方がその次の目標になるでしょう。」と。

二人の君主が言うには、「我々もそれはその通りだと理解している。あの知伯の人柄は、粗暴であって親近感に乏しい。我々の計略がまだ実現しないうちに知伯が知れば、その災いがきっと及ぶだろう。それをどのように行うのか。」と。

張孟談が言うには、「計略はお二方の口から出て、私の耳に入りました。他の人がこれを知ることはありません。」と。

二人の君主はすぐに張孟談とひそかに全軍の投入を約束し、これと日時を決めて、夜、晋陽に入らせた。

張孟談は襄子に報告した。

襄子はこれに丁寧なお辞儀をした。

そこで、張孟談は知伯に謁見して退出し、知過に軍門の外で出合った。

知過が入って知伯にお目にかかって言うには、「二人の君主は、ほとんど今にも変化が生じようとしています。」と。

主君が言うには、「どのようなのか。」と。

答えて言うには、「私は張孟談に軍門の外で出合いました。意気揚々として、胸を張って歩いていました。」と。

知伯が言うには、「そんなことはない。私が二人の君主と約束したことは謹厳なのだ。趙を破ってその領地を三つに分けようとする。私が自分自身で相手と約束したものだ。決して欺かないのだ。あなたはこのことを捨て置きなさい。口に出して言ってはいけない。」と。

知過は退出して二人の君主にお目にかかった。

入って知伯に説明して言うには、「二人の君主は、顔に動揺の色があって心が変わっています。きっと主君に背くでしょう。これを殺させたほうがいい。」と。

知伯が言うには、「軍を晋陽に配置して三年になる。もう少しで奪い取ってその利益を受けるはずだ。だから、裏切りの心を持つことはありえないのだ。あなたは二度と言わないように気をつけなさい。」と。

知過が言うには、「殺さないのならば、すぐにこれと親密に接してください。」と。

知伯が言うには、「これと親密に接するには、どうすればいいのか。」と。

知過が言うには、「魏の宣子の謀臣を趙葭といい、韓の康子の謀臣を段規といいます。この二人とも、その君主の計略を変えることができます。主君はお二方と約束してください。趙を破ったならば、二人をそれぞれ戸数一万戸の県の一つの領主にしよう、と。このようにすれば、二人の君主の心は変わるはずもなく、そして主君は自分の欲しいものを手に入れるでしょう。」と。

知伯が言うには、「趙を破ってその地を三つに分け、また二人をそれぞれ戸数一万戸の県の一つの領主にすれば、私の手に入れるものが少ない。だめだ。」と。

知過は主君が賢明でなく、進言が聞き入れられないのを確認すると、退出して自分の姓を変えて輔氏となり、とうとう立ち去ってもう謁見しなかった。

張孟談はこれを聞き、入って襄子に謁見して言うには、「私は知過に軍門の外で出合いました。彼がじっと見つめたのは、私を疑う心が有るからです。入って知伯に謁見し、退出して自分の姓を変えました。今夜攻撃しなければ、きっと手遅れになるでしょう。」と。

襄子が言うには、「わかった。」と。

張孟談を韓と魏の君主に謁見させて言うには、「今夜決行しましょう。」と。

堤防を守っている役人を殺して、水をあふれ出させて知伯の軍に流し込んだ。

知伯の軍は、水を防ぐのに気を取られて混乱した。

韓と魏の軍が両側から挟んでこれを攻撃し、襄子の将兵がその正面を攻め、大いに知伯の軍をうち破って、知伯を生け捕りにした。

知伯は、自身は死に、国は滅び領地は分割されて、天下の笑いものになった。

これは貪欲であって満足することがなかったからだ。

そもそも知過の進言を聞き入れなかったことも、また、滅んでしまった理由だ。

知氏はすべて滅び、ただ輔氏だけが残存した。


     [ 書き下し文 ]

張孟談是に於いて陰かに韓・魏の君に見えて曰はく、「臣聞く、唇亡びば則ち歯寒しと。今知伯二国の君を帥ゐて趙を伐ち、趙将に亡びんとす。亡びば則ち二君之が次と為らん。」と。

二君曰はく、「我其の然るを知る。夫の知伯の人と為り、麤中にして親しみ少なし。我が謀未だ遂げずして知らば、則ち其の禍必ず至らん。之を為すこと奈何。」と。

張孟談曰はく、「謀は二君の口より出でて、臣の耳に入る。人之を知る莫きなり。」と。

二君即ち張孟談と陰かに三軍を約し、之と日を期し、夜晋陽に入らしむ。

張孟談以つて襄子に報ず。

襄子之を再拜す。

張孟談因りて知伯に朝して出で、知過に轅門の外に遇ふ。

知過入りて知伯に見えて曰はく、「二主殆ど将に変有らんとす。」と。

君曰はく、「何如。」と。

対へて曰はく、「臣張孟談に轅門の外に遇ふ。其の志矜り、其の行くこと高し。」と。

知伯曰はく、「然らず。吾二主と約すること謹なり。趙を破りて其の地を三分せんとす。寡人之を親しくする所なり。必ず欺かざるなり。子之を釈け。口より出すこと勿かれ。」と。

知過出でて二主に見ゆ。

入りて知伯に説きて曰はく、「二主色動きて意変ず。必ず君に背かん。之を殺さしむるに如かず。」と。

知伯曰はく、「兵晋陽に著くこと三年なり。旦暮当に抜きて其の利を饗くべし。乃ち他心有るは不可なり。子慎んで復た言ふこと勿かれ。」と。

知過曰はく、「殺さずんば、則ち遂に之と親しめ。」と。

知伯曰はく、「之と親しむには奈何。」と。

知過曰、「魏宣子の謀臣を趙葭と曰ひ、韓康子の謀臣を段規と曰ふ。是れ皆能く其の君の計を移す。君其れ二君と約せよ。趙を破らば、則ち二子の者を各万家の県一に封ぜんと。是くのごとくせば、則ち二主の心変ぜざるべく、而うして君其の欲する所を得ん。」と。

知伯曰はく、「趙を破りて其の地を三分し、又二子の者を各万家の県一に封ぜば、則ち吾が得る所の者少なし。不可なり。」と。

知過君の明ならず、言の聴かれざるを見るや、出でて其の姓を更へて輔氏と為り、遂に去りて見えず。

張孟談之を聞き、入りて襄子に見えて曰はく、「臣知過に轅門の外に遇ふ。其の視るや臣を疑ふの心有り。入りて知伯に見え、出でて其の姓を更ふ。今暮撃たずんば、必之に後れん。」と。

襄子曰はく、「諾。」と。

張孟談をして韓・魏の君に見えしめて曰はく、「夜期せん。」と。

堤を守るの吏を殺して、水を決して知伯の軍に灌ぐ。

知伯の軍水を救ひて乱る。

韓・魏翼んで之を撃ち、襄子の将卒其の前を犯し、大いに知伯の軍を敗りて、知伯を禽にす。

知伯身死し、国亡び地分かたれて、天下の笑ひと為る。

此れ貪欲にして厭く無ければなり。

夫れ知過に聴かざるも、亦亡びし所以なり。

知氏尽く滅び、唯だ輔氏のみ存せり。






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