観音のご加護


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今は昔、身いと悪くて過ごす女ありけり。
今では昔のことだが、身の上がとても貧しくて過ごす女がいた。

時々来る男、来たりけるに、雨に降りこめられてゐたるに、
時々通って来る男が、やって来たが、雨が降り家に閉じ込められていたので、

「いかにしてものを食はせむ。」と思ひ嘆けど、すべき方もなし。
「どのようにしてものを食べさせよう。」と悲嘆するが、どうしようもない。

日も暮れ方になりぬ。
日も暮れるころになった。

いとほしくいみじくて、
つらく悲しくて、

「わが頼みたてまつりたる観音、助けたまへ。」と思ふほどに、
「私がお頼り申し上げている観音様、お助けください。」と思っていると、

わが親のありし世に使はれし女従者、
私の親が生きていた時に使われていた女の使用人が、

いときよげなる食ひ物を持て来たり。
とてもおいしそうな食べ物を持って来た。

うれしくて、よろこびに取らすべきもののなかりければ、
うれしくて、お礼として与えるのにふさわしいものがなかったので、

小さやかなる紅き小袴を持ちたりけるを、取らせてけり。
小さい感じのする紅い丈の短い袴の持っていたのを、与えたのだった。

我も食ひ、人にもよくよく食はせて、寝にけり。
自分も食べ、男にも十分に食べさせて、寝てしまった。

暁に男は出でていぬ。
夜明け前に男は出て行った。

つとめて、持仏堂にて、観音持ちたてまつりたりけるを、
朝早く、持仏堂に、観音様を安置申し上げていたのを、

見たてまつらむとて、帳立て、
拝見しようと思って、几帳を立て、

据ゑまゐらせたりけるを、帷子引き開けて見まゐらす。
お置き申し上げていたのを、帷子を引き開けて拝見させていただく。

この女に取らせし小袴、
この女に与えた丈の短い袴を、

仏の御肩にうち掛けておはしますに、いとあさまし。
仏様が御肩に掛けていらっしゃるので、とても意外だった。

昨日取らせし袴なり。
昨日与えた袴である。

あはれにあさましく、
ありがたくあきれたことに、

おぼえなくて持て来たりしものは、この仏の御しわざなりけり。
思いがけなく持って来た出来事は、この仏様のなされたことだったのだ。






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