東くだり


・ 伊勢物語「東くだり」の現代語訳と品詞分解です。現代語訳と品詞分解を並べて記載しています。

・ 500個ほど有るといわれている重要語句はカラーで表示しています。150個ほど有るといわれている最重要語句には印を付けています。

HOME(古文記事一覧)>伊勢物語



・ 下の画像クリックで次のページに進む。

       [ 現代語訳・品詞分解・原文 ]

東くだり・伊勢物語 現代語訳・品詞分解・原文


       [ 詳しい解説 ]

昔、男ありけり。
昔、男がいた。
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

その男、身を要なきものに思ひなして、京にはあらじ、
その男は、自分を必要のないものと思い込んで、京にはおるまい、
・ 要なき … ク活用の形容詞「要なし」の連体形
○ 要なし … 必要がない
・ 思ひなし … サ行四段活用の動詞「思ひなす」の連用形
○ 思ひなす … 思い込む
・ あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形
・ じ … 打消意志の助動詞「じ」の終止形

東の方に住むべき国求めにとて行きけり。
東国の方に住むのにふさわしい国を探しにと思って出かけた。
・ 住む … マ行四段活用の動詞「住む」の終止形
・ べき … 適当の助動詞「べし」の連体形
・ 求め … マ行下二段活用の動詞「求む」の連用形
・ 行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形


          [ 次のページに進む ]


もとより友とする人、一人二人して行きけり。
以前から友人である人、一人二人とともに出かけた。

道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。
道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。

三河の国八橋といふ所に至りぬ。
三河の国の八橋という所に着いた。

そこを八橋といひけるは、水行く川の蜘蛛手なれば、
そこを八橋といったのは、水の流れる川がクモの足のようなので、

橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。
橋を八つ渡してあることによって、八橋といったのだ。

その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。
その沢のほとりの木の陰に降りて座って、乾飯を食べた。

その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
その沢にかきつばたがたいそうすばらしく咲いていた。

それを見て、ある人のいはく、
それを見て、ある人が言うには、

「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて、
「かきつばたという五文字を和歌の各句の頭に置いて、

旅の心を詠め。」と言ひければ、詠める。
旅の気持ちを詠め。」と言ったので、詠んだ。

  唐衣きつつなれにしつましあれば
  着なれた衣の褄のように、なれ親しんだ妻が都にいるので、

  はるばるきぬる旅をしぞ思ふ
  はるばるやって来た旅をしみじみ思うことだ。

と詠めりければ、みな人、
と詠んだので、その場にいた人は皆、

乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
乾飯の上に涙を落として、ふやけてしまったのだった。

行き行きて、駿河の国に至りぬ。
どんどん行って、駿河の国に着いた。

宇津の山に至りて、わが入らむとする道は、
宇津の山まで行って、自分が分け入ろうとする道は、

いと暗う細きに、蔦・楓は茂り、もの心細く、
ひどく暗く細い上に、蔦や楓が茂り、なんとなく心細く、

すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。
思いがけない辛いめに会うことだと思っていると、修行者が出会った。

「かかる道は、いかでかいまする。」と
「このような道に、どうしていらっしゃるのですか。」と

言ふを見れば、見し人なりけり。
言うのを見ると、見知っている人だった。

京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
京に、あの人の御もとにと思って、手紙を書いてことづける。

  駿河なる宇津の山べのうつつにも
  駿河の国の宇津の山の辺りにいますが、宇津の山といえば、うつつにも、

  夢にも人にあはぬなりけり
  夢にもあなたに会わないことだよ。

富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
富士の山を見ると、五月の末に、雪がたいそう白く降り積もっている。

  時知らぬ山は富士の嶺
  時節をわきまえない山は富士の嶺だ。

  いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ
  今をいつだと思って鹿の子まだらに雪が降っているのだろうか。

その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ね上げたらむほどして、
その山は、都で例えるならば、比叡山を二十くらい重ね上げたような高さで、

なりは塩尻のやうになむありける。
形は塩尻のようだった。

なほ行き行きて、武蔵の国と下総の国との中に、
さらにどんどん行って、武蔵の国と下総の国との間に、

いと大きなる川あり。それをすみだ川といふ。
たいへん大きな川がある。それをすみだ川という。

その川のほとりに群れゐて、思ひやれば、
その川のほとりに集まり座って、思いをはせると、

限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、渡し守、
はるばると遠くにやって来たものだなあと心細く感じ合っていると、渡し守が、

「はや舟に乗れ。日も暮れぬ。」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
「はやく舟に乗れ。日も暮れてしまう。」と言うので、乗って渡ろうとするが、

みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
一行の人は皆なんとなく悲しくなって、京に思う人がいないわけではない。

さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、
ちょうどそんな折、白い鳥でくちばしと脚とが赤い、

鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ、魚を食ふ。
鴫の大きさくらいの鳥が、水の上で遊びながら魚を食べている。

京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
京では見かけない鳥なので、一行の人は誰も見知らない。

渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥。」と言ふを聞きて、
渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥だ。」と言うのを聞いて、

  名にし負はばいざこと問はむ都鳥
  都という名前を持っているのならば、さあ尋ねてみよう、都鳥よ、

  わが思ふ人はありやなしやと
  私がいとしく思っている人は無事でいるのかどうかと。

と詠めりければ、舟こぞりて泣きにけり。
と詠んだので、舟の中の人はみんな泣いてしまった。






Copyright プロ家庭教師タカシ All Rights Reserved