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[ 現代語訳・品詞分解・原文 ]
昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、
昔、男がいた。手に入れることができそうもなかった女を、
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
☆ え(〜打消) … 〜できない
・ 得 … ア行下二段活用の動詞「得(う)」の終止形
・ まじかり … 打消推量の助動詞「まじ」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
年を経てよばひわたりけるを、
幾年にもわたって求婚し続けてきたが、
・ 経 … ハ行下二段活用の動詞「経(ふ)」の連用形
・ よばひわたり … ラ行四段活用の動詞「よばひわたる」の連用形
○ よばふ … 求婚する
☆ 〜わたる … ずっと〜する
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。
やっとのことで盗み出して、ひどく暗い夜に連れてきた。
・ 盗み出で … ダ行下二段活用の動詞「盗み出づ」の連用形
☆ いと … (基本)程度がはなはだしい
(文脈)たいそう
・ 暗き … ク活用の形容詞「暗し」の連体形
・ 来 … カ行変格活用の動詞「来(く)」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形
芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、
芥川という川のほとりを連れて行ったところ、草の上に降りていた露を、
・ いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・ 率 … ワ行上一段活用の動詞「率る」の連用形
○ 率る … 引き連れる
・ 行き … カ行四段活用の動詞「行く」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ 置き … カ行四段活用の動詞「置く」の連用形
・ たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
「かれは何ぞ。」となむ男に問ひける。
「あれは何ですか。」と男に尋ねた。
行く先多く、夜も更けにければ、鬼ある所とも知らで、
行く先は遠く、夜も更けてしまったので、鬼がいる所とも知らないで、
神さへいといみじう鳴り、雨もいたう降りければ、
その上雷までもたいそうひどく鳴り、雨も激しく降ってきたので、
あばらなる蔵に、女をば奥に押し入れて、
荒れはてた蔵に、女を奥の方に押し込んで、
男、弓・胡簶を負ひて戸口にをり、
男は、弓を持ち、胡簶を背負って戸口にいて、
はや夜も明けなむと思ひつつゐたりけるに、
早く夜が明けてほしいと思いながら座っていたところ、
鬼はや一口に食ひてけり。
鬼がたちまち一口で食ってしまった。
「あなや。」と言ひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。
「あれっ。」と叫んだけれども、雷が鳴るさわがしさで聞くことができなかった。
やうやう夜も明けゆくに、見れば、率て来こし女もなし。
ようやく夜も明けてきたので、見ると、連れてきた女がいない。
足ずりをして泣けどもかひなし。
地だんだを踏んで泣いたが、どうしようもない。
白玉か何ぞと人の問ひし時
あれは白玉ですか何ですかとあの人が尋ねた時に、
露と答へて消えなましものを
あれは露ですと答えて消えてしまったらよかったのに。
これは、二条の后の、いとこの女御の御もとに、
これは、二条の后が、いとこの女御のお側に、
仕うまつるやうにてゐたまへりけるを、
お仕えするようにしておいでになっていたが、
かたちのいとめでたくおはしければ、
容貌がたいそうすぐれていらっしゃったので、
盗みて負ひて出でたりけるを、御兄堀河の大臣、太郎国経の大納言、
盗んで背負って出て行ったのだが、兄君の堀河の大臣、長男の国経の大納言が、
まだ下?にて内裏へ参りたまふに、
まだ官位の低い者であって宮中へ参上なさる時に、
いみじう泣く人あるを聞きつけて、とどめて取り返したまうてけり。
ひどく泣く人がいるのを聞きつけて、引き留めて取り返しなさった。
それを、かく鬼とは言ふなりけり。
それを、このように鬼と言ったのだ。
まだいと若うて、后のただにおはしける時とや。
まだとても若くて、后が普通の身分でいらっしゃった時のこととか。
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