叡実、路頭の病者を憐れむ事


・ 縦書き、原文に助動詞の意味を付記

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  [ 現代語訳・原文・助動詞 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 阿闍梨 … 天台宗における僧職の一つ

・ 悩み … 病気

・ 召す … お呼び寄せになる

・ 仰せ … ご命令

・ なまじひなり … 気が進まずにするさま

・ まかる … 「行く」の謙譲語


  [ 現代語訳・原文・助動詞2 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ あやしげなり … みすぼらしい感じだ

・ かなはず … 思い通りにならない

・ つら … かたわら

・ 平がる … 伏せる

・ 臥す … 横たわる

・ 憐れむ … 気の毒に思う

・ とぶらふ … 心配して様子を聞く

・ 畳 … 敷物の総称


  [ 現代語訳・原文・助動詞3 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 仮屋 … 仮に作った小屋

・ 扱ふ … 面倒を見る

・ やや … だんだん

・ 久し … 長い時間がかかる

・ 便なし … 都合が悪い


  [ 現代語訳・原文・助動詞4 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 任す … ゆだねる

・ 御事 … 高貴な人に関する事柄

・ あながちに〜(打消) … 必ずしも

・ おろかなり … おろそかである


  [ 現代語訳・原文・助動詞5 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 〜にとりて … 〜に関して

・ 君 … 天皇

・ 験 … 祈祷の効きめ

・ さらに〜(打消) … 決して

・ こと欠く … 不足する


  [ 現代語訳・原文・助動詞6 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 厭ふ … いやがる

・ 汚む … 見苦しがる

・ 捨つ … 放置する

・ ほとほと … ほとんど

・ 寿 … 生命

・ かれ … その人


  [ 現代語訳・原文・助動詞7 ]

叡実、路頭の病者を憐れむ事・発心集 現代語訳・原文・助動詞


     [ 語句 ]

・ 時の人 … 当時の人

・ ありがたし … 尊く優れている

・ 終はり … 臨終




    [ 現代語訳 ]

比叡山に、叡実阿闍梨といって、尊い人がいた。

帝のご病気が、重くていらっしゃったころ、お呼び寄せになったので、たびたびご辞退申し上げたけれども、たび重なったご命令を断りきれなくて、しぶしぶながら参っていた道に、みすぼらしい感じの病人で、足も手も動かないで、ある所の築地のかたわらに腹ばいになって寝ている者がいた。

阿闍梨はこれを見て、悲しみの涙を流しながら、車から下りて、気の毒に思い様子を聞いた。

敷物を求めて敷かせ、上を仮の小屋で覆い、食べ物を求め面倒を見るうちに、次第に時間が経ってしまった。

勅使が、「日が暮れてしまいそうです。たいそう不都合なことです。」と言ったので、「参上しません。このように、その旨を申し上げなさい。」と言う。

ご使者は驚いて、理由を尋ねた。

阿闍梨が言うには、「俗世間を嫌って、心を仏道にささげてから、帝の事柄といっても必ずしも尊くはありません。

このような病人といってもまたおろそかではありません。

まるで同じように思われるのです。

それについて、帝のお祈りのため、祈祷の効き目がある僧侶を呼び寄せるとすれば、山々や寺々に大勢いる人で、誰が参上しないでしょうか、誰でも参上します。

決して不足しないでしょう。

この病者にいたっては、嫌い見苦しがる人だけがあって、近づき面倒を見る人はあるはずがありません。

もし私が見捨てて立ち去ってしまえば、ほとんど命も尽きてしまうでしょう。」と言って、かれだけを憐れみ助けている間に、とうとう参上しないままになってしまったので、当時の人は、尊く優れていることだと言った。

この阿闍梨は、死ぬ時に往生を遂げた。

詳しく『続本朝往生伝』にある。


     [ 原文 ]

山に、叡実阿闍梨といひて、貴き人ありけり。

帝の御悩み、重くおはしましけるころ、召しければ、たびたび辞し申しけれど、重ねたる仰せ否びがたくて、なまじひにまかりける道に、あやしげなる病人の、足手もかなはずして、ある所の築地のつらに平がり臥せるありけり。

阿闍梨これを見て、悲しみの涙を流しつつ、車より下りて、憐れみとぶらふ。

畳求めて敷かせ、上に仮屋さし覆ひ、食ひ物求めあつかふほどに、やや久しくなりにけり。

勅使、「日暮れぬべし。いといと便なきことなり。」と言ひければ、「参るまじき。かく、その由を申せ。」と言ふ。

御使ひおどろきて、ゆゑを問ふ。

阿闍梨言ふやう、「世を厭ひて、心を仏道に任せしより、帝の御事とてもあながちに貴からず。

かかる病人とてもまたおろかならず。

ただ同じやうにおぼゆるなり。

それにとりて、君の御祈りのため、験あらん僧を召さんには、山々寺々に多かる人、たれかは参らざらん。

さらにこと欠くまじ。

この病者にいたりては、厭ひ汚む人のみありて、近づきあつかふ人はあるべからず。

もし我捨てて去りなば、ほとほと寿も尽きぬべし。」とて、かれをのみ憐れみ助くる間に、つひに参らずなりにければ、時の人、ありがたきことになん言ひける。

この阿闍梨、終りに往生を遂げたり。

くはしく伝にあり。




    [ 品詞分解1 ]

・ 山 … 名詞

・ に … 格助詞

・ 叡実阿闍梨 … 名詞

・ と … 格助詞

・ いひ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 貴き … ク活用の形容詞「貴し」の連体形

・ 人 … 名詞

・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形

・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

・ 帝 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 御悩み … 名詞

・ 重く … ク活用の形容詞「重し」の連用形

・ おはしまし … 行四段活用の動詞「おはします」の連用形

・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

・ ころ … 名詞

・ 召し … サ行四段活用の動詞「召す」の連用形

・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形

・ ば … 接続助詞

・ たびたび … 副詞

・ 辞し … サ行変格活用の動詞「辞す」の連用形

・ 申し … サ行四段活用の謙譲の補助動詞「申す」の連用形

・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形

・ ど … 接続助詞

・ 重ね … ナ行下二段活用の動詞「重ぬ」の連用形

・ たる … 完了の助動詞「たり」の連体形

・ 仰せ … 名詞

・ 否び … バ行上二段活用の動詞「否ぶ」の連用形

・ がたく … 接尾語、連用形

・ て … 接続助詞

・ なまじひに … ナリ活用の形容動詞「なまじひなり」の連用形

・ まかり … ラ行四段活用の動詞「まかる」の連用形

・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

・ 道 … 名詞

・ に … 格助詞


    [ 品詞分解2 ]

・ あやしげなる … ナリ活用の形容動詞「あやしげなり」の連体形

・ 病人 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 足手 … 名詞

・ も … 係助詞

・ かなは … ハ行四段活用の動詞「かなふ」の未然形

・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

・ して … 接続助詞

・ ある … 連体詞

・ 所 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 築地 … 名詞

・ の … 格助詞

・ つら … 名詞

・ に … 格助詞

・ 平がり … ラ行四段活用の動詞「平がる」の連用形

・ 臥せる … サ行下二段活用の動詞「臥す」の連体形

・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形

・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

・ 阿闍梨 … 名詞

・ これ … 代名詞

・ を … 格助詞

・ 見 … マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 悲しみ … 名詞

・ の … 格助詞

・ 涙 … 名詞

・ を … 格助詞

・ 流し … サ行四段活用の動詞「流す」の連用形

・ つつ … 接続助詞

・ 車 … 名詞

・ より … 格助詞

・ 下り … ラ行上二段活用の動詞「下る」の連体形

・ て … 接続助詞

・ 憐れみ … マ行四段活用の動詞「憐れむ」の連用形

・ とぶらふ … ハ行四段活用の動詞「とぶらふ」の終止形

・ 畳 … 名詞

・ 求め … マ行下二段活用の動詞「求む」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 敷か … カ行四段活用の動詞「敷く」の未然形

・ せ … 使役の助動詞「す」の連用形


    [ 品詞分解3 ]

・ 上 … 名詞

・ に … 格助詞

・ 仮屋 … 名詞

・ さし覆ひ … ハ行四段活用の動詞「さし覆う」の連用形

・ 食ひ物 … 名詞

・ 求め … マ行下二段活用の動詞「求む」の連用形

・ 扱ふ … ハ行四段活用の動詞「扱ふ」の連体形

・ ほど … 名詞

・ に … 格助詞

・ やや … 副詞

・ 久しく … シク活用の形容詞「久し」の連用形

・ なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形

・ に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形

・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

・ 勅使 … 名詞

・ 日 … 名詞

・ 暮れ … ラ行下二段活用の動詞「なる」の連用形

・ ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

・ べし … 推量の助動詞「べし」の終止形

・ いといと … 副詞

・ 便なき … ク活用の形容詞「便なし」の連体形

・ こと … 名詞

・ なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

・ と … 格助詞

・ 言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形

・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形

・ ば … 接続助詞

・ 参る … ラ行四段活用の動詞「参る」の終止形

・ まじき … 打消意志の助動詞「まじ」の連体形

・ かく … 副詞

・ そ … 代名詞

・ の … 格助詞

・ よし … 名詞

・ を … 格助詞

・ 申せ … サ行四段活用の動詞「申す」の命令形

・ と … 格助詞

・ 言ふ … ハ行四段活用の動詞「言う」の終止形


    [ 品詞分解4 ]

・ 御使ひ … 名詞

・ 驚き … カ行四段活用の動詞「驚く」の連用形

・ て … 接続助詞

・ ゆゑ … 名詞

・ を … 格助詞

・ 問ふ … ハ行四段活用の動詞「問ふ」の終止形

・ 阿闍梨 … 名詞

・ 言ふ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連体形

・ やう … 名詞

・ 世 … 名詞

・ を … 格助詞

・ 厭ひ … ハ行四段活用の動詞「厭ふ」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 心 … 名詞

・ を … 格助詞

・ 仏道 … 名詞

・ に … 格助詞

・ 任せ … サ行下二段活用の動詞「任す」の連用形

・ し … 過去の助動詞「き」の連体形

・ より … 格助詞

・ 帝 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 御事 … 名詞

・ とて … 格助詞

・ も … 係助詞

・ あながちに … ナリ活用の形容動詞「あながちなり」の連用形

・ 貴から … ク活用の形容詞「貴し」の未然形

・ ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

・ かかる … ラ行変格活用の動詞「かかり」の連体形

・ 病人 … 名詞

・ とて … 格助詞

・ も … 係助詞

・ また … 副詞

・ おろかなら … ナリ活用の形容動詞「おろかなり」の未然形

・ ず … 打消の助動詞「ず」の終止形


    [ 品詞分解5 ]

・ ただ … 副詞

・ 同じ … シク活用の形容詞「同じ」の連体形

・ やうに … 比況の助動詞「やうなり」の連用形

・ おぼゆる … ヤ行下二段活用の動詞「おぼゆ」の連体形

・ なり … 断定の助動詞「なり」の終止形

・ それ … 代名詞

・ に … 格助詞

・ とり … ラ行四段活用の動詞「とる」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 君 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 御祈り … 名詞

・ の … 格助詞

・ ため … 名詞

・ 験 … 名詞

・ あら … ラ行変格活用の動詞「あり」の未然形

・ ん … 婉曲の助動詞「ん」の連体形

・ 僧 … 名詞

・ を … 格助詞

・ 召さ … サ行四段活用の動詞「召す」の未然形

・ ん … 仮定の助動詞「ん」の連体形

・ に … 格助詞

・ は … 係助詞

・ 山々 … 名詞

・ 寺々 … 名詞

・ に … 格助詞

・ 多かる … ク活用の形容詞「多し」の連体形

・ 人 … 名詞

・ たれ … 代名詞

・ かは … 係助詞

・ 参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形

・ ざら … 打消の助動詞「ず」の未然形

・ ん … 推量の助動詞「ん」の終止形

・ さらに … 副詞

・ こと欠く … カ行四段活用の動詞「こと欠く」の終止形

・ まじ … 打消推量の助動詞「まじ」の終止形


    [ 品詞分解6 ]

・ こ … 代名詞

・ の … 格助詞

・ 病者 … 名詞

・ に … 格助詞

・ いたり … ラ行四段活用の動詞「いたる」の連用形

・ て … 接続助詞

・ は … 係助詞

・ 厭ひ … ハ行四段活用の動詞「厭ふ」の連用形

・ 汚む … マ行四段活用の動詞「汚む」の連体形

・ 人 … 名詞

・ のみ … 副助詞

・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 近づき … カ行四段活用の動詞「近づく」の連用形

・ 扱ふ … ハ行四段活用の動詞「扱ふ」の連用形

・ 人 … 名詞

・ は … 係助詞

・ ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形

・ べから … 推量の助動詞「べし」の未然形

・ ず … 打消の助動詞「ず」の終止形

・ もし … 副詞

・ 我 … 名詞

・ 捨て … タ行下二段活用の動詞「捨つ」の連用形

・ て … 接続助詞

・ 去り … ラ行四段活用の動詞「去る」の連用形

・ な … 完了の助動詞「ぬ」の未然形

・ ば … 接続助詞

・ ほとほと … 副詞

・ 寿 … 名詞

・ も … 係助詞

・ 尽き … カ行上二段活用の動詞「尽く」の連用形

・ ぬ … 完了の助動詞「ぬ」の終止形

・ べし … 推量の助動詞「べし」の終止形

・ とて … 格助詞

・ かれ … 代名詞

・ を … 格助詞

・ のみ … 副助詞

・ 憐れみ … マ行四段活用の動詞「憐れむ」の連用形

・ 助くる … カ行下二段活用の動詞「助く」の連体形

・ 間 … 名詞

・ に … 格助詞


    [ 品詞分解7 ]

・ つひに … 副詞

・ 参ら … ラ行四段活用の動詞「参る」の未然形

・ ず … 打消の助動詞「ず」の連用形

・ なり … ラ行四段活用の動詞「なる」の連用形

・ に … 完了の助動詞「ぬ」の連用形

・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形

・ ば … 接続助詞

・ 時 … 名詞

・ の … 格助詞

・ 人 … 名詞

・ ありがたき … ク活用の形容詞「ありがたし」の連体形

・ こと … 名詞

・ に … 格助詞

・ なん … 係助詞

・ 言ひ … ハ行四段活用の動詞「言ふ」の連用形

・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

・ こ … 代名詞

・ の … 格助詞

・ 阿闍梨 … 名詞

・ 終はり … 名詞

・ に … 格助詞

・ 往生 … 名詞

・ を … 格助詞

・ 遂げ … ガ行下二段活用の動詞「遂ぐ」の連用形

・ たり … 完了の助動詞「たり」の終止形

・ くはしく … シク活用の形容詞「くはし」の連用形

・ 伝 … 名詞

・ に … 格助詞

・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の終止形








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