人面桃花


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人面桃花 現代語訳・書き下し文・読み


     [ 語句・句法 ]

・ 孤潔 … 孤独で潔癖

・ 進士に挙げらる … 科挙に推挙される

・ 下第す … 落第する

・ 居人の荘 … 人の住む家

・ 一畝の宮 … 小さな屋敷

・ 叢萃す … むらがって生える


     [ 原文 ]

 博陵崔護、資質甚美、而孤潔寡合。

 挙進士、下第。

 清明日、独遊都城南、得居人荘。

 一畝之宮、而花木叢萃、寂若無人。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 寂たり … ひっそりしている様子

・ 〜を久しうす … しばらく〜する

・ 姓字 … 名前

・ 酒渇す … 酒を飲み、のどがかわく


     [ 原文 ]

 一畝之宮、而花木叢萃、寂若無人。

 扣門久之。

 有女子、自門隙窺之、問曰、「誰耶。」

 以姓字対曰、「尋春独行、酒渇求飲。」

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 杯水 … 杯に一杯分の水

・ 牀を設く … 腰掛けを用意する

・ 斜柯 … 斜めになった枝

・ 佇立す … たたずむ

・ 意属 … 思いを寄せること

・ 妖姿 … あでやかな容姿

・ 媚態 … なまめかしい容姿

・ 綽たり … しなやかな様子

・ 余姸 … あふれるばかりの美しさ

・ 以言挑之 … 言葉をかけて気を引く


     [ 原文 ]

 女人以杯水至、開門設牀命坐、

 独倚小桃斜柯佇立、而意属殊厚。

 妖姿媚態、綽有余姸。

 崔以言挑之、不対。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 目注す … じっと見つめる

・ 情に勝へず … 募る思いに耐えかねる

・ 睠盼す … 振り返って見る

・ 嗣後 … 以後


     [ 原文 ]

 目注者久之。

 崔辞去、送至門、如不勝情而入。

 崔亦睠盼而帰。嗣後、絶不復至。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 来歳 … 翌年

・ 忽ち … 急に

・ 門牆 … 門とへい

・ 鎖扃す … 鍵をかけてしめる

・ 因りて … それゆえ

・ 題す … 書きつける


     [ 原文 ]

 及来歳清明日、忽思之、情不可抑。

 徑往尋之。門牆如故、而已鎖扃之。

 因題詩於左扉曰、

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 祇だ今 … 今まさに

・ 旧に依りて … もとのまま


     [ 原文 ]

  去年今日此門中

  人面桃花相映紅

  人面祇今何処去

  桃花依旧笑春風

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 偶 … 偶然

・ 哭す … 大声をあげて泣く

・ 〜耶 … 〜か

  読み「〜や」(疑問)

・ 是れなり … そうである


     [ 原文 ]

 後数日、偶至都城南、復往尋之。

 聞其中有哭声、扣門問之。

 有老父、出曰、「君非崔護耶。」

 曰、「是也。」

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 驚起す … 驚く

・ 筓年 … 女子の十五歳

・ 書を知る … 読み書きを身につける

・ 適く … 嫁ぐ

・ 恍惚たり … ぼんやりとする様子


     [ 原文 ]

 又哭曰、「君殺吾女。」

 護驚起、莫知所答。

 老父曰、「吾女筓年知書、未適人。

 自去年以来、常恍惚若有所失。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 比日 … 先日

・ 将〜 … 〜しようとする

  読み「まさニ〜ントす」(再読文字)

・ 所以 … 理由

・ 君子 … 学識も人格も優れた人物


     [ 原文 ]

 比日与之出。及帰、見左扉有字。

 読之入門而病、遂絶食数日而死。

 吾老矣。

 此女所以不嫁者、将求君子、以託吾身。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 殞す … 死ぬ

・ 得非〜耶 … 〜でないといえようか

  読み「〜あらザルヲえンや」(反語)

・ 特に … とりわけ

・ 慟 … ひどく悲しむこと

・ 儼然たり … おごそかな様子

・ 牀 … 寝台


     [ 原文 ]

 此女所以不嫁者、将求君子、以託吾身。

 今不幸而殞。得非君殺之耶。」

 又特大哭。

 崔亦感慟、請入哭之。尚儼然在牀。

   
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     [ 語句・句法 ]

・ 祝る … 祈る

・ 某 … わたくし

・ 須臾 … ほんの短い間

・ 帰ぐ … 嫁ぐ


     [ 原文 ]

 崔挙其首、枕其股、哭而祝曰、

 「某在斯、某在斯。」

 須臾開目、半日復活矣。

 父大喜、遂以女帰之。




     [ 現代語訳 ]

博陵の崔護は、容姿や性格はたいそう優れていたが、孤独で潔癖であって人と気の合うことが少なかった。

科挙に推挙されたが、落第した。

清明節の日に、一人で都の町の南をぶらぶら歩きまわり、人の住む家を見つけた。

小さな屋敷で、花の咲く木が群がって生え、ひっそりとして人がいないかのようである。

門をしばらくの間たたいた。

女性がいて、門の隙間から崔護をのぞき見て、訪ねて言うには、「どなたですか。」と。

名前を答えて言うには、「春を探し求めて一人で出かけ、酒を飲み、のどが渇いて、飲み物を求めています。」と。

女性は中に入り杯水を持ってきて、門を開き腰掛けを用意して座るように言い、一人小さな桃の木の斜めになった枝に寄りかかってたたずみ、思いを寄せること、非常に深い。

あでやかでなまめかしい姿、しなやかであふれるほどの美しさがある。

崔護が言葉をかけて気を引くが、答えない。

しばらくの間じっと見つめている。

崔護が挨拶をして立ち去ろうとすると、送って門のところまで来て、募る思いに耐えきれないようにして入っていった。

崔護もまた振り返って見ながら帰っていった。

その後、決して二度と訪れることはなかった。

翌年の清明の日になって、急に女性のことを思い出し、思いを抑えることができなかった。

すぐに出かけて女性の家を訪ねた。

門と塀は元のままだったが、もはや門に鍵をかけて閉ざしてあった。

それで詩を左の扉に書きつけて言うには、

  去年の今日、この門の中では、

  あの人の顔と桃の花が互いに映えて紅色だった。

  あの人の顔は今まさにどこに行ってしまったのか。

  桃の花は昔のまま春の風の中に咲いている。   と。

その後数日して、たまたま都の町の南に行くことがあり、再び行って女性の家を訪ねた。

その中で大声で泣く声がするのを聞き、門をたたいてその理由を尋ねた。

年老いた男がいて、出てきて言うには、「あなたは崔護ではありませんか。」と。

言うには、「そうです。」と。

さらに大声で泣いて言うには、「あなたは私の娘を殺した。」と。

崔護は驚いて、何と答えたらよいかわからなかった。

年老いた男が言うには、「私の娘は十五歳で読み書きを身につけたが、まだ誰にも嫁いでいません。

去年以来、いつもぼんやりとして何かが抜けてしまったようでした。

先日娘とともに出かけ、帰ってきたところ、左の扉に字が書かれているのを見ました。

これを読み、門の中に入って病気になり、そのまま食事を取らなくなって数日で死んでしまいました。

私は年老いました。

この娘が嫁がなかった理由は、立派な男性を探し求めて、自分の身を託そうとしたからです。

今不幸にも死にました。

あなたが娘を殺してないといえましょうか。」と。

さらに特に大きな声をあげて泣いた。

崔護もまた心を打たれて非常に悲しみ、お願いして入って娘のために声をあげて泣いたが、やはりおごそかな様子で寝台に横たわっていた。

崔護がその頭を持ち上げ、自分の太ももを枕にさせて、声をあげ泣きながら祈って言うには、「私はここにいます、私はここにいます。」と。

たちまち目を開き、半日たって再び生き返った。

父親はたいへん喜んで、とうとう娘を崔護に嫁がせた。




     [ 書き下し文 ]

博陵の崔護は、資質甚だ美なるも、孤潔にして合ふこと寡なし。

進士に挙げらるるも、下第す。

清明の日、独り都城の南に遊び、居人の荘を得たり。

一畝の宮にして、花木叢萃し、寂として人無きがごとし。

門を叩くこと之を久しうす。

女子有り、門隙より之を窺ひ、問ひて曰はく、「誰ぞや。」と。

姓字を以て対へて曰はく、「春を訪ねて独り行き、酒渇して飲を求む。」と。

女入り杯水を以て至り、門を開き牀を設けて坐を命じ、独り小桃の斜柯に倚り佇立して、意属殊に厚し。

妖姿媚態、綽として余姸有り。

崔言を以て之に挑むも、対へず。

目注する者之を久しうす。

崔辞去するに、送りて門に至り、情に勝へざるがごとくして入る。

崔も亦睠盼して帰る。

嗣後絶えて復た至らず。

来歳の清明の日に及び、忽ち之を思ひ、情抑ふべからず。

徑ちに往きて之を尋ぬ。

門牆故のごとくなるも、已に之を鎖扃せり。

因りて詩を左扉に題して曰はく、

   去年の今日此の門の中

   人面桃花相映じて紅なり

   人面祇だ今何れの処にか去る

   桃花は旧に依りて春風に笑む   と。

後数日、偶都城の南に至り、復た往きて之を尋ぬ。

其の中に哭声有るを聞き、門を扣きて之を問ふ。

老父有り、出でて曰はく、「君は崔護に非ずや。」と。

曰はく、「是れなり。」と。

又哭して曰はく、「君吾が女を殺せり。」と。

護驚起し、答ふる所を知る莫し。

老父曰はく、「吾が女は筓年書を知り、未だ人に適かず。

去年より以来、常に恍惚として失ふ所有るがごとし。

比日之と出で、帰るに及び、左扉に字有るを見る。

之を読み、門に入りて病み、遂に食を絶つこと数日にして死す。

吾老いたり。

此の女の嫁がざりし所以の者は、将に君子を求めて、吾が身を託せんとすればなり。

今不幸にして殞す。君之を殺すに非ざるを得んや。」と。

又特に大いに哭す。

崔も亦感慟し、請ひて入り之に哭すれば、尚ほ儼然として牀に在り。

崔其の首を挙げ、其の股に枕せしめ、哭して祝して曰はく、「某斯に在り、某斯に在り。」と。

須臾にして目を開き、半日にして復た活きたり。

父大いに喜び、遂に女を以て之に帰がしむ。






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