酒虫


・ 縦書き、全漢字に読み、ひらがな

HOME(漢文記事一覧)





 [ 現代語訳・書き下し文1 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 輒ち … そのたびに

・ 甕 … かめ

・ 負郭の田 … 城の外側の肥沃な土地

・ 輒ち … そして

・ 黍 … みちきび

・ 累 … 心配


 [ 現代語訳・書き下し文2 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 番僧 … チベット仏教の僧侶

・ 異疾 … 奇妙な病気


 [ 現代語訳・書き下し文3 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 愕然たり … 非常に驚くさま

・ 便ち … すぐに

・ 倶に … みんな

・ 日中 … ひなた

・ 俯臥す … うつぶせに寝る

・ 良醞 … 良い酒


 [ 現代語訳・書き下し文4 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 時を移して … しばらくして

・ 燥渇す … 喉が渇く

・ 饞火 … 欲望の炎


 [ 現代語訳・書き下し文5 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文

     [ 語句・句法 ]

・ 忽ち … 非常に短い時間で

・ 暴かに … 急に

・ 哇く … ゲエと吐く

・ 直ちに … 直接

・ 縛 … 縄

・ 視る … 注意して見る

・ 蠕動する … くねくねと動く


 [ 現代語訳・書き下し文6 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 将た … いったい

・ 攪す … かき回す

・ 即ち … すぐに

・ 佳醸 … おいしい酒

・ 果たして … ほんとうに


 [ 現代語訳・書き下し文7 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 漸く … しだいに

・ 異史氏 … 不思議な記録の筆者


 [ 現代語訳・書き下し文8 ]

酒虫・聊斎志異 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 飲啄 … 飲食すること

・ 固より … もともと

・ 数 … さだめ

・ 愚 … おろかなこと




    [ 原文 ]

 長山劉氏、体肥嗜飲。

 毎独酌輒尽一甕。

 負郭田三百畝。

 輒半種黍、而家豪富、不以飲為累也。

 一番僧見之、謂其身有異疾。

 劉答言無。

 僧曰、「君飲常不酔否。」

 曰、「有之。」

 曰、「此酒虫也。」

 劉愕然便求医療。曰、「易耳。」

 問、「需何薬。」

 倶言不須、但令於日中俯臥、縶手足、

 去首半尺許、置良醞一器。

 移時燥渇、思飲為極。

 酒香入鼻、饞火大熾、而苦不得飲。

 忽覚咽中暴痒、哇有物出、直墮酒中。

 解縛視之、赤肉長三寸許、

 蠕動如游魚、口眼悉備。

 劉驚謝、酬以金、不受、但乞其虫。

 問、「将何用。」

 曰、「此酒之精。甕中貯水、

 入虫攪之、即成佳醸。」

 劉使試之、果然。

 劉自是悪酒如仇。

 体漸痩、家亦日貧。

 後飲食至不能給。

 異史氏曰、「日尽一石、無損其富、

 不飲一斗適以益貧。

 豈飲啄固有数乎。

 或言、『虫是劉之福、非劉之病。

 僧愚之以成其術。』然歟否歟。」




    [ 現代語訳 ]

長山の劉氏は、体が太っていて飲酒を好んだ。

一人で飲むたびに、いつも、かめ一杯を飲み干した。

城郭の周辺に三百畝の良田を持っていた。

そして、その半分にみちきびを植えていて、しかも、家が富豪だったので、大酒を飲んでも心配なかった。

一人のチベット仏教の僧侶が劉氏を見て、その体には奇妙な病気があると言う。

劉氏は無いと答えた。

僧侶が言うには、「あなたは酒を飲んでも、いつも酔わないのではありませんか。」と。

言うには、「そうですよ。」と。

言うには、「それは酒虫のせいです。」と。

劉氏は、非常に驚いて、すぐに治療を依頼した。

言うには、「たやすいことです。」と。

「どんな薬が必要なんですか。」と尋ねた。

何も必要ないと言って、ただ、ひなたにうつぶせに寝させて、手足を縛り、首から半尺ほど離れたところに、上等の酒を一つ器に入れて置いただけである。

しばらくして喉が渇き、飲みたいという思いが極限にまで達した。

酒の香りが鼻に入り、激しい欲望が大いに燃えたって、飲むことができないのに苦しんだ。

そのうち喉の中が急にむずがゆく感じられて、ゲエと吐くと何かが出てきて、そのまま酒の中に落ちた。

縄をほどいてこれをよく見ると、赤い肉をした長さが三寸ほどのもので、くねくねと動いて泳ぐ魚のようであり、口も眼もついている。

劉氏は驚き感謝して、お礼としてお金を払おうとしたが、受け取らずに、ただその虫を欲しがるだけだった。

「いったい何に使うのですか。」と尋ねた。

言うには、「これは酒の精なのです。かめの中に水を貯めて、虫を入れてこれをかき回すと、すぐに美酒ができるのです。」と。

劉氏が試しにやらせてみると、実際、そのとおりだった。

劉氏は、それ以来、酒を仇のように嫌うようになり、体はどんどん痩せ、家もまた日ごとに貧しくなって、その後、飲み食いさえもままならない状況におちいった。

筆者が言うには、「毎日酒一石を飲み干しても、その富を減らすことなく、酒一斗も飲まないのにどんどん貧しくなっていく。

はたして飲み食いには、元来、天命が定まっているのだろうか。

ある人は、『虫は劉氏の福の神であって、劉氏の病気の元ではない。僧が無知につけ込んでその術を用いたのだ。』と言う。

そうなのかどうか。」と。






Copyright プロ家庭教師タカシ All Rights Reserved