猿、恩を知ること


・ 沙石集「猿、恩を知ること」の現代語訳と品詞分解です。現代語訳と品詞分解を並べて記載しています。

・ 500個ほど有るといわれている重要語句はカラーで表示しています。150個ほど有るといわれている最重要語句には印を付けています。

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       [ 現代語訳・品詞分解・原文 ]

猿恩を知ること・沙石集 現代語訳・品詞分解・原文


       [ 詳しい解説 ]

中ごろ、伊豆の国のある所の地頭に、若き男ありけり。
地頭(じとう)
そう遠くない昔、伊豆の国のある所の地頭に、若い男がいた。
・ 若き … ク活用の形容詞「若し」の連体形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

狩りしけるついでに、猿を一匹生け捕りにして、
狩りをした折に、猿を一匹生け捕りにして、
・ し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形
・ し … サ行変格活用の動詞「す」の連用形

これを縛りて家の柱に結ひ付けたりけるを、
結(ゆ)ひ
これを縛って家の柱に結び付けていたのを、
・ 縛り … ラ行四段活用の動詞「縛る」の連用形
・ 結ひ付け … カ行下二段活用の動詞「結ひ付く」の連用形
・ たり … 存続の助動詞「たり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

彼の母の尼公、慈悲ある人にて、「あらいとほし、
尼公(にこう)、慈悲(じひ)
男の母の尼君が、慈悲のある人であって、「ああかわいそう、
・ ある … ラ行変格活用の動詞「あり」の連体形
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
・ いとほし … シク活用の形容詞「いとほし」の終止形
☆ いとほし … (基本)見ているのがつらい
            (文脈)かわいそうだ


   


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いかにわびしかるらん。
どんなにつらいことでしょう。
あれ解き許して、山へやれ。」 と言へども、
猿の縄をほどき解放して、山に逃がしなさい。」と言うけれども、
郎等、冠者ばら、主の心を知りて、おそれてこれを解かず。
家臣や若者どもは、主人の心を知っていて、恐れて猿の縄をほどかない。
「いでさらば我解かん。」とて、
「さあそれでは私が縄をほどこう。」と言って、
これを解き許して、 山へやりぬ。
猿の縄をほどき解放して、山に逃がした。
これは春の事なりけるに、夏、覆盆子のさかりに、
これは春のことだったが、夏、いちごの盛りに、
覆盆子を柏の葉につつみて、隙をうかがひて、この猿、尼公にわたしけり。
いちごを柏の葉に包んで、すきをねらって、この猿は、尼公に渡した。
あまりにあはれに、いとほしく思ひて、
あまりに感心で、いじらしく思って、
布の袋に、大豆を入れて、猿にとらせつ。
布の袋に、大豆を入れて、猿に与えた。
その後、栗のさかりに、さきの布の袋に栗を入れて、隙にまた持て来たる。
その後、栗の盛りに、前の布の袋に栗を入れて、すきをついて再び持って来た。
このたびは、猿を捕らへて置きて、子息を呼びて、この次第を語りて、
今度は、猿を捕まえておいて、 息子を呼んで、この成り行きを語って、
「子々孫々までも、この所に猿殺さしめじと、
「子や孫の代までも、この場所では猿を殺させないようにすると、
起請を書け。もしさらずは、母子の儀あるべからず。」と、
起請文を書きなさい。もしそうでなければ、母でも子でもありません。」と、
おびたたしく誓状しければ、
きわめて多く誓いを記した紙を書いたので、
子息、起請書きて、当時までも、
息子は、起請文を書いて、現在までも、
この所に猿を殺さぬよし、ある人語りき。
この場所では猿を殺さないということを、ある人が語った。
所の名までは書かず。
場所の名前までは書かない。
人として恩を知らざらんは、げに畜類にもなほ劣れり。
人として恩を知らないのは、まことに畜生にもさらに劣っている。
近代は父母を殺し、師匠を殺す者、聞こえ侍り。
今の時代は父母を殺し、師匠を殺す者のことが、耳に入ります。
かなしき濁世のならひなるべし。
つらい濁り汚れた世のならわしに違いない。


   






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