阿蘇の史


・ 今昔物語集「阿蘇の史」の現代語訳と品詞分解です。現代語訳と品詞分解を並べて記載しています。

・ 500個ほど有るといわれている重要語句はカラーで表示しています。150個ほど有るといわれている最重要語句には印を付けています。

HOME(古文記事一覧)>今昔物語集



・ 下の画像クリックで次のページに進む。

       [ 現代語訳・品詞分解・原文 ]

阿蘇の史・今昔物語集 現代語訳・品詞分解・原文


       [ 詳しい解説 ]

今は昔、阿蘇のなにがしといふ史ありけり。
阿蘇(あそ)、史(さかん)
今では昔のことだが、阿蘇のだれそれという史がいた。
・ いふ … ハ行四段活用の動詞「いふ」の連体形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けり … 過去の助動詞「けり」の終止形

たけ短なりけれども、魂はいみじき盗人にてぞありける。
短(ひき)なり、盗人(ぬすびと)
背丈は低かったけれども、精神は並々でない悪いやつだった。
・ 短なり … ナリ活用の形容動詞「短なり」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ いみじき … シク活用の形容詞「いみじ」の連体形
☆ いみじ … (基本)程度がはなはだしい
           (文脈)並の程度ではない
・ に … 断定の助動詞「なり」の連用形
○ ぞ(係助詞・強調) ⇒ 結び:ける(連体形)
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形

家は西の京にありければ、公事ありて内に参りて、
公事(くじ)、内(うち)
家は西の京にあったので、朝廷の公務があって内裏へ参上して、
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
・ けれ … 過去の助動詞「けり」の已然形
・ あり … ラ行変格活用の動詞「あり」の連用形
☆ 内 … 宮中
・ 参り … ラ行四段活用の動詞「参る」の連用形(謙譲語

夜更けて家に帰りけるに、
夜更(よふ)け
夜が更けて家に帰っていたが、
・ 更け … カ行下二段活用の動詞「更く」の連用形
・ 帰り … ラ行四段活用の動詞「帰る」の連用形
・ ける … 過去の助動詞「けり」の連体形


   


          [ 次のページに進む ]

東の中の御門より出でて、
待賢門から出て、

車に乗りて大宮下りにやらせて行きけるに、
牛車に乗って東大宮大路を南の方へ進ませていた時に、

着たる装束をみな解きて、片端よりみなたたみて、
着ていた正装をみんな脱いで、片っ端からみんなたたんで、

車の畳の下にうるはしく置きて、その上に畳を敷きて、
車の敷物の下にきちんと置いて、その上に敷物を敷いて、

史は冠をし、襪を履きて、裸になりて車の内にゐたり。
史は冠をつけ、足袋を履いて、裸になって車の中に座っていた。

さて、二条より西様ざまにやらせて行くに、
そうして、二条大路から西の方向に車を進ませて行くと、

美福門のほどを過ぐる間に、盗人、傍らよりはらはらといで来ぬ。
美福門の辺りを通り過ぎる時に、盗人が、横側からばらばらと出て来た。

車の轅に付きて、牛飼ひ童を打てば、童は牛を棄てて逃げぬ。
車の轅の側に寄って、牛飼い童をたたいたので、童は牛を捨てて逃げた。

車の後に雑色二、三人ありけるも、みな逃げて去にけり。
車の後ろに下働きの者が二、三人いたが、みんな逃げ去った。

盗人寄り来て、車の簾を引き開けて見るに、裸にて史ゐたれば、
盗人が近寄って来て、車の簾を引き開けて見ると、裸で史が座っていたので、

盗人、「あさまし。」と思ひて、「こはいかに。」と問へば、
盗人は、「あきれた。」と思って、「これはどうしたのだ。」と尋ねると、

史、「東の大宮にて、かくのごとくなりつる。
史は、「東の大宮大路で、このようになった。

君達寄り来て、己が装束をばみな召しつ。」と笏を取りて、
貴公子達が寄って来て、私の正装を全てお取り上げなさった。」と笏を手にして、

よき人にもの申すやうにかしこまりて答へければ、
高貴な人に申し上げるように恐れつつしんで答えたので、

盗人笑ひて捨てて去にけり。
盗人は笑ってそのままにして立ち去った。

その後、史、声を上げて牛飼ひ童をも呼びければ、みな出で来にけり。
その後で、史が、大きな声を出して牛飼い童を呼んだところ、みんなが出て来た。

それよりなむ家に帰りにける。
それから家に帰ったのだった。

さて、妻にこの由を語りければ、妻のいはく、
そうして、妻にこのいきさつを話したところ、妻が言うには、

「その盗人にも増さりたりける心にておはしける。」と言ひてぞ笑ひける。
「その盗人をも上回った心でいらっしゃることよ。」と言って笑った。

まことにいとおそろしき心なり。
ほんとうに非常に驚くべき精神だ。

装束をみな解きて隠しおきて、しか言はむと思ひける心ばせ、
装束をみんな脱いで隠しておいて、そういうふうに言おうと思った気ばたらき、

さらに人の思ひ寄るべきことにあらず。
決して人の思いつくようなことではない。

この史は極めたる物言ひにてなむありければ、
この史は極限にまで至った能弁で機転のきく者だったので、

かくも言ふなりけり、となむ語り伝へたるとや。
このように言ったのだ、と語り伝えているということだ。


   






Copyright プロ家庭教師タカシ All Rights Reserved