人虎伝


・ 「人虎伝」は唐の時代に書かれた伝奇小説です。作者は李景亮(りけいりょう)です。中島敦「山月記」のもとになった小説です。

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人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 家す … 家を構える

・ 文を属す … 詩文を作る

・ 弱冠 … 男子の二十歳

・ 号す … 名づける

・ 榜 … 科挙の合格者を啓示する立て札


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 調補す … 科挙の及第者を官吏に選任する

・ 疎逸なり … 気ままで人と親しまない

・ 恃む … 力として頼りにする

・ 倨傲なり … おごり高ぶって尊大である

・ 跡 … 行くえ

・ 屈する … 尽きる

・ 鬱鬱たり … 心が晴れないさま


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 同舎 … 同じ役所

・ 酣なり … 酒宴が佳境にあるさま

・ 顧みる … 見まわす

・ 伍 … 仲間

・ 側目す … 憎んで見る

・ 謝秩 … 官僚の任期を満了すること

・ 間適す … 静かに暮らす


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 間 … ある限られた範囲

・ 遊ぶ … 家から離れた土地に行く

・ 且 … 今にも〜ようとする

  読み「まさニ〜ントす」(再読文字)

・ 歳余 … 一年余り

・ 饋遺 … 贈り物


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


・ 逆旅 … 宿屋

・ 忽ち … 急に

・ 何も無く … まもなく


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 客 … 旅人

・ 還る … 元の場所に戻る

・ 遂に … そのまま


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 狠 … 心がねじ曲がる

・ 倍す … 増す

・ 肱髀 … 肘ともも

・ 視る … 注意して見る


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 既にして … そのうちに

・ 悲慟す … 悲しんで声をあげて泣く

・ 尚ほ … やはり


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 久しくす … 時間が経つ


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 山下 … 山の麓

・ 餒え … 飢え

・ 徘徊す … うろうろと歩き回る

・ 数四 … しばしば

・ 禁ず … 差し止める

・ 殊に … とりわけ

・ 首飾 … 髪飾り

・ 巌石 … 大きな岩


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 冕す … 冠をつける

・ 趨る … 小走りに行く

・ 翔く … 空高く飛ぶ

・ 馳す … 速く走る

・ 阻む … 進行を阻止する

・ 立ちどころに … その場ですぐに

・ 率ね … だいたい


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 妻孥 … 妻と子

・ 神祗 … 天地の神

・ 分 … 異獣としての分際


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 既に … まったく

・ 荒山 … 人けのない寂しい山

・ 乗馬 … 乗用の馬

・ 囊 … 大きな袋

・ 駆る … 走らせる


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 書を齎す … 手紙を持っていく

・ 志す … 覚えておく

・ 且つ … 〜さえも

・ 資業 … 財産


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 固より … もちろん

・ 謀る … 計画する

・ 周行 … 中央の高官の位

・ 位列す … その位置に列する

・ 素より … 平素から

・ 風義を秉る … 立派な態度を保つ

・ 分 … 人間関係

・ 孤弱 … 父親のいない幼子

・ 念ふ … 心をくばる


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 賑恤す … 哀れんで救う

・ 殍死す … 飢え死にする

・ 足下 … 貴殿

・ 休戚 … 喜びと悲しみ


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 厚命 … 懇ろな頼みごと

・ 旧文 … 以前に作った詩文

・ 代に行はる … 世間に伝わる

・ 遺藳 … 残しておいた原稿

・ 散落す … 散らばってなくなる


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 伝 … 残すこと

・ 録 … 書き記すこと

・ 口閾 … うわさ

・ 列す … 並ぶ

・ 貴ぶ … 大切にする

・ 僕 … 従僕

・ 筆 … 書き記すこと

・ 口に随ひて … 言う通りに


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 高し … 格調が高い

・ 理 … 内容

・ 遠し … 深遠である

・ 閲す … 読む

・ 平生の業 … 以前に行った仕事


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 外 … 外観

・ 中 … 内心

・ 懐ひ … 思い

・ 道ふ … 言う

・ 攄ぶ … 述べる


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 異物 … 人類と違う生物

・ 蓬茅 … 雑草

・ 軺 … 小さい軽い車

・ 気勢 … 意気込む気持ち

・ 渓山 … 谷と山

・ 長嘯 … 声を長く引いて詩を吟じること

・ 嘷 … ほえ叫ぶこと


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 異物 … 人類と違う生物

・ 蓬茅 … 雑草

・ 軺 … 小さい軽い車

・ 気勢 … 意気込む気持ち

・ 渓山 … 谷と山

・ 長嘯 … 声を長く引いて詩を吟じること

・ 嘷 … ほえ叫ぶこと


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 才行 … 才知と品行

・ 平生 … ふだん

・ 二儀 … 陰陽の二つの気


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 遇ふ … めぐり合う

・ 数 … 運命

・ 顔子 … 顔回

・ 尼父 … 孔子

・ 反求 … 振り返って考える


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 故人 … 古くからの友人

・ 記す … 記憶する

・ 孀婦 … 夫を亡くした女性

・ 私す … ひそかに交際する


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 害す … 妨害する

・ 焚殺す … 焼き殺す


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 再拝す … 丁寧なあいさつをする

・ 草茅 … 草むら

・ 回視す … 振り返ってみる

・ 悲泣 … 悲しみ泣くこと


人虎伝・李景亮 現代語訳・書き下し文


     [ 語句・句法 ]

・ 慟く … 大声で泣き悲しむ

・ 看る … 注意して見る

・ 咆哮 … 荒々しく吠えること


     [ 原文 ]

隴西李徴、皇族子。家於虢略。

徴少博学、善属文。

弱冠従州府貢焉、時号名士。

天宝十五載春、於尚書右丞楊元榜下、登進士第。

後数年、調補江南尉。

徴性疎逸、恃才倨傲。

不能屈跡卑僚。嘗鬱鬱不楽。

毎同舎会、既酣、顧謂其群官曰、「生乃与君等為伍耶。」

其寮友咸側目之。

及謝秩、則退帰間適、不与人通者、近歳余。

後迫衣食、乃東遊呉楚間、以干郡国長吏。

徴在呉楚、且歳余、所獲饋遺甚多。

西帰虢略、未至。

舎於汝墳逆旅中、忽被疾発狂。

鞭捶僕者。不勝其苦。

於是旬余、疾益甚。

無何夜狂走、莫知其適。


虎曰、「我前身客呉楚。

去歳方還、道次汝墳、忽嬰疾発狂。

夜聞戸外有呼吾名者、遂応声而出、走山谷間。

不覚、以左右手攫地而歩。

自是覚心愈狠、力愈倍。

及視其肱髀、則有毛生焉。

心甚異之。

既而臨渓照影、已成虎矣。

悲慟良久。

然尚不忍攫生物食也。

既久飢不可忍、遂取山中鹿豕獐兎充食。

又久諸獣皆遠避、無所得飢益甚。

一日有婦人、従山下過。

時正餒迫、徘徊数四、不能自禁、遂取而食。

殊覚甘美。

今其首飾、猶在巌石之下也。

自是冕而乗者、徒而行者、負而趨者、翼而翔者、毛而馳者、力之所及、悉擒而阻之、立尽、率以為常。

非不念妻孥、思朋友。

直以行負神祇、一旦化為異獣、有靦於人。

故分不見矣。


「初、我於逆旅中、為疾発狂、既入荒山。

而僕者駆我乗馬衣囊悉逃去。

吾妻孥尚在虢略。

豈知我化為異類乎。

君自南回、為齎書、訪吾妻子、但云我已死、無言今日事。志之。」

乃曰、「吾於人世、且無資業。

有子尚稚、固難自謀。君位列周行、素秉風義。

昔日之分、豈他人能右哉。

必望念其孤弱。時賑恤之、無使殍死於道途、亦恩之大者。」

言已、又悲泣。

傪亦泣曰、「傪与足下休戚同焉。然則足下子亦傪子也。

当力副厚命。又何虞其不至哉。」

虎曰、「我有旧文数十編。未行於代。

雖有遺藳、当尽散落。君為我伝録。

誠不能列文人之口閾、然亦貴伝於子孫也。」

傪即呼僕命筆、随其口書。近二十章。

文甚高、理甚遠。閲而歎者、至於再三。

虎曰、「此吾平生之業也。又安得寝而不伝歟。」

既又曰、「吾欲為詩一編。蓋欲表吾外雖異、而中無所異。

亦欲以道吾懐、而攄吾憤也。」

傪復命吏、以筆授之。詩曰、

  偶 因 狂 疾 成 殊 類

  災 患 相 仍 不 可 逃

  今 日 爪 牙 誰 敢 敵

  当 時 声 跡 共 相 高

  我 為 異 物 蓬 茅 下

  君 已 乗 軺 気 勢 豪

  此 夕 溪 山 対 明 月

  不 成 長 嘯 但 成 嘷

傪覧之驚曰、「君之才行、我知之矣。

而君至於此者、君平生得無有自恨乎。」

虎曰、「二儀造物、固無親疎厚薄之間。

若其所遇之時、所遇之数、吾又不知也。

噫、顔子之不幸、冉有斯疾、尼父常深歎之矣。

若反求其所自恨、則吾亦有之矣。

不知定因此乎。

吾遇故人、則無所自匿也。

吾常記之。

於南陽郊外、嘗私一孀婦。

其家窃知之、常有害我心。

孀婦、由是不得再合。

吾因乗風縦火、一家数人、尽焚殺之而去。

此為恨爾。」


叙別甚久。

傪乃再拝上馬、回視草茅中、悲泣所不忍聞。

傪亦大慟、行数里、登嶺看之、則虎自林中躍出咆哮、巌谷皆震。






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